2012年2月16日木曜日

坂岡真『照れ降れ長屋風聞帖 福来』

昨日は所用が重なってこれを記すことができなかったが、今日は、仕事も比較的のんびりと始めた。今日は、寒さがぶり返し、気温の低い曇天が広がっている。三寒四温ではなく、六寒一温ぐらいだろうか、まだまだ、春は遠い。

 昨夜、いささか疲れを覚えていたが、坂岡真『照れ降れ長屋風聞帖 福来』(2009年 双葉文庫)を気楽に読む。何とはなしにこのシリーズを読んでいるのだが、これはこのシリーズの十三作目。本作は、このシリーズの中心的人物である「照れ降れ長屋」に住むうらぶれた中年浪人の浅間三左衛門やその妻で十分の一屋(仲人業)をしている「おまつ」ではなく、浅間三左衛門をひとかどの人物と見込んでいる若い町奉行所同心である八尾半四郎である。この八尾半四郎を中心にした「鳥落としの娘」、「紅猪口」、「福来」の三話がここに収められている。

 八尾半四郎は、町奉行の隠密をしている弓の名手である雪乃に惚れているが、なかなかうまくいかない。この雪乃の物語が、第一話「鳥落としの娘」で、牢破りをした強盗の仁平次を捕らえる密命を帯びて、得意の矢で見事にこれを捕らえるが、その仁平次が江戸送りになるときに何者かに殺されるのである。仁平次は、尾張藩上屋敷から三万両もの大金を奪ったひとりだと言われていた。

 だが、そこには尾張藩勘定奉行の公金流用が絡んでいて、流用した公金を糊塗するために盗まれたことにして誤魔化そうとする企てがあったのである。

 雪乃は単身でそれを暴いていくし、八尾半四郎は仁平次の殺害からその真相に近づいていく。仁平次は見事な矢で射殺されていた。尾張藩には矢の名人と言われる人物がいたのである。奇しくもその時、将軍の命で矢の通し比べをすることとなり、鳥落とし名人と言われた父親の代わりに雪乃が出場することになり、仁平次を射殺した尾張藩士と矢の射かけ比べをすることになる。

 雪乃は半四郎の自分に対する気持ちを知っていたし、その気持ちにこたえようかどうかを迷っていたが、矢の通し比べに見事に勝利し、結婚を諦めて武者修行の旅にでるのである。八尾半四郎には縁談の話が持ち上がっていた。

 第二話「紅猪口」は、浅間三左衛門の妻「おまつ」の連れ子で、日本橋呉服町の大店に奉公に出ていた「おすず」が、大店の娘と間違えられて拐かされる事件を扱ったものである。大店の娘は芝居の役者に入れあげていて、琴の稽古のときに「おすず」と入れ替わって自由を楽しんでいたのである。

 だが、その娘ではなく、入れ替わっていた「おすず」が拐かされて身代金が要求される。八尾半四郎は「おすず」を救うために奔走し、結局、大店の主が男色気を起こしたのがもとで、地回りに強請られ、男色相手であった芝居の役者ともどもに拐かして金を奪う計画を立てていたことがわかっていくというものである。「おすず」は無事に釈放されて戻って来て、拐かしを計画した者たちを八尾半四郎が捕らえるのある。

 第三話「福来」は、かつて裏店の住人たちからも慕われていた岡っ引きであった彦蔵が勤める池之端七軒町の自身番が襲われ、彦蔵が殺されるという事件が起こり、その事件の裏に、私腹を肥やそうとする町奉行所の同心と、彼が操るどうしようもない大名家の家臣の息子たちの欲望が渦巻いていたという真相を八尾半四郎が暴き、死闘を繰り返して、これを討つというものである。そして、八尾半四郎は雪乃ではなく、縁談のあった奈美という娘と結婚することになるという落ちが、最後に語られる。

 物語そのものはどうということもないが、物語の展開にどこにも無理がなく、書き慣れた作品であるとの印象を受ける。凝った文書もなく、気楽に書かれた作品のようで、気楽に読める。何となく、ただそれだけのような気もしないではないし、こういう気楽な作品ばかりだと時代小説という分野は飽きられていく気がしないでもないが。

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