空模様が毎日変わって、段々と冬が近づいているのを感じながら、時が過ぎている。朝は雨模様であったが、お昼前後から晴れてきた。街路樹の銀杏も黄色く色づき始めひらひらと散っている。道行く人の格好は、もうすっかり冬の姿で、どこか縮こまっている感じがしないでもない。
昨夜も、気楽な作品をと思い、池端洋介『元禄畳奉行秘聞 江戸・尾張放火事件』(2009年 大和書房文庫)を読んでいた。これは、元禄時代の尾張藩士で、『鸚鵡籠中日記』を書き残した朝日文左衛門(重章)を主人公としたこのシリーズの二作目で、一作目と三作目を読んでいたので、その間の物語ということになる。一作目が尾張藩の後継者問題、三作目が徳川将軍職を巡る紀州藩との争いになっており、第二作目は、その紀州藩との争いの萌芽が語られ、特に、紀州の二代目藩主の徳川光貞が将軍徳川綱吉に贋作の刀を贈り、恥をかいたということがあったが、それが尾張藩で作成された物であることから、紀州藩が尾張藩領内で贋作を作ったと思われる村を焼き討ちにするという事件が起こったことを取り上げて、そこに主人公を絡ませる展開となっている。これが表題の「尾張放火事件」である。
もう一つ、江戸で紀州藩邸が焼けてしまうという大火が起こったが、これを、将軍位をめぐる争いで、紀州藩の信用をなくそうとした尾張藩の付家老であった成瀬家によるものとして物語が展開される。それが「江戸放火事件」である。将軍綱吉には継子がなく、紀州と尾張が後継者をめぐって争う中で、なんとか尾張のから将軍を出して、それによって付家老から大名になろうと成瀬家が画策したというのである。尾張は、家康の九男の徳川義直を藩祖とするが、二代目将軍の秀忠のとき以来、江戸の徳川家に江戸徳川家を脅かすものとして見られてきており、江戸と尾張の関係は常に緊張関係であったのである。
主人公の朝日文左衛門は、こうした尾張藩の危機的状況の中で、彼の友人たちや飲み仲間、彼が師と仰ぐ天野源蔵(信景)らと共に、事件が大事にならないように働いていくのである。面白いと思っているのは、それが常に朝日文左衛門個人の視点で、しかも下級藩士の視点で語られていく点であり、文左衛門にとって、なんとか家督相続が許されて藩主の「お目見え」となることや、今日の飲み代をどうするか、妻の「お慶」が懐妊したことなどが大事で、刀の贋作事件にしても、彼の叔父が贋作をつかまされたことを発端としているのである。
つまり、朝日文左衛門というとぼけたユーモラスな人格で、小心だが生類憐れみの令などどこ吹く風で平然と好きな魚とりをし、芝居見物が禁止されても隠れて芝居を見に行き、酒好きで、好奇心旺盛な人物の日常が描き出されて、その流れの中で事件が展開されていくのである。
ほかの作品でもそうだが、作者は主人公をユーモラスに描く。深刻な状況の中でどこまでも楽天的なのである。だから、読む方も気楽に読むことができる。そして、事件というものの渦中にあっても、普通の人間の日常とはそうしたものであり、それを大事にすることに意味があるのだから、こういう作品とこういう視点はいいと思いながら読んでいる。
今日はどことなく疲れが残って身体が重い。為すべきことも溜まってきているが、いまひとつ興が乗らないままになっている。まあ、こんな日もあるだろう。
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