今週明けから真冬のような寒さが続いているが、今日は、抜けるような碧空の下で気温の低い日になった。急に寒くなって、身体機能がなかなかついていかない気がしている。先週の疲れも出たのか、どうも調子が戻らないでいる。
読書は読み手の気分にも左右されるので、今回読んだ上田秀人『お髷番承り候二 奸闘の緒』(2011年 徳間文庫)も、何かもうほかの作品と同じような展開が繰り返されているだけのような気がして、少し辛口の気分で読んでしまった。
これは、このシリーズの第一作『潜謀の影』(2010年 徳間文庫)の続編で、四代将軍徳川家綱の信頼を得て「お髷番」として抜擢された旗本の妾腹の子である主人公の深室賢治郎がいよいよ将軍後継問題をめぐる陰謀に巻き込まれていくようになる次第を描いたものである。
四代将軍家綱が病弱で子がなかったために、次期将軍を巡って、同じ三代将軍家光の子であり兄弟であった徳川綱吉と徳川綱重が相続位を争うことになり、それぞれの生母による権力獲得の工作が大奥を使って行われたりするし、幕閣内での権力争いが起こっていく。
もともと、家綱が将軍位を継いだ時は、若年11歳であったが、叔父の保科正之や大老の酒井忠勝、知恵伊豆と言われた松平信綱、阿部忠秋といった「寛永の遺老」と言われた優れた人物が幕閣を形成しており、家綱の将軍としての権威が認められつつも、「左様せい」ということで安定した政権運営がなされていたが、それらの老臣たちが死去したり、高齢のために政治の表舞台から隠居したりしていく中で、酒井忠清が大老としての実権を握るようになり(寛文6年 1666年)、将軍位継承問題が幕閣の権力掌握問題と絡んで表面化していくのである。
本書では、次期将軍位を狙う四男綱吉(館林藩主)の母桂昌院(お玉)と三男綱重(甲府藩主)の母順性院(お夏)の互いの争い、将軍家綱を殺害して将軍位を早く手に入れようとする画策、そして、将軍を「お飾り」として実権を握ろうとする堀田正俊、酒井忠清らの陰謀が巡らされ、主人公の深室賢治郎がそれらの陰謀を打ち砕いていく設定になっている。こうした設定は作者の十八番であろう。
ただ、面白いのは、深室賢治郎が婿養子として入った深室家の娘三弥と賢治郎との仲が、次第に互いを認めていく愛情に変わっていく姿が描かれていて、気の強い三弥が気の強いなりに賢治郎への想いを強めていくと同時に、賢治郎も三弥への愛情を感じ始めていく展開がなされていくことと、賢治郎の兄が保身と出世のために堀田正俊らに利用されて、弟の賢治郎の殺害を企てていくという展開で、将軍位を巡る兄弟の争いと、保身と出世のために弟の殺害を企てる暗殺が平行に描かれている点である。
人間の醜さとほのぼのとした愛情の温かさが混在して物語が展開されるあたりは、現代の時代小説の面白さで、それが遺憾なく発揮されているのはさすがであると思う。
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