2014年5月14日水曜日

風野真知雄『穴屋佐平次難題始末』

 午後から雨になり、今は雨音が木霊するくらいに激しく降っている。午後、少し時間ができたので、風野真知雄『穴屋佐平次難題始末』(2008年 徳間文庫)を気楽に読んでいた。まったく肩の凝らない滑稽本の類で、「穴屋」という不思議な商売を生業にする佐平次という男を主人公にし、葛飾北斎は登場するは、太田南畝(蜀山人)、写楽、首切り浅右衛門で知られる山田浅右衛門は登場するは、果ては二宮金次郎、シーボルトまで登場するという予想外の展開を見せる作品である。

 主人公の佐平次自体、元公儀御庭番で、佐渡の金山の内偵に行ったときに上司にもぐった穴を爆破されて、危うく命を失いかけ、それ以来、御庭番から逃げて、変わった商売をする者たちが住む長屋で「どんな穴でも開けます」という看板を掲げて「穴屋」を始めたという経歴を持っている。

 そして、彼が住む長屋に蛇を商いにする女性の「お巳い」と知り合い、恋仲となるが、「お巳い」は女陰のない女性で、最後にはシーボルトのオランダ語通詞から教えられた「リーフデ(liefde)」(love 愛)の深い姿に目覚めていくという恋話も展開されている。

 その穴屋佐平次が最初に出会うのが葛飾北斎で、北斎は絶世の美女と言われる女を覗いて絵にしたいから覗き穴を掘るように佐平次に依頼するのである。だが、それは北斎のスケベ心ではなく、その女性の美しさにも負けない富嶽百景を描くためだという落ちになる。

 こういう具合に、著名な人々が、さもあり得るかもしれないという脚色を交えて登場し、穴を掘ることで佐平次が親交をもっていく展開になっている。

 こうした娯楽作品は、まさにエンターテイメント性にあふれていて、だからと言って歴史的なことが踏まえられて、そこに作者の筆力が加わるので、まことに気楽に読めるのである。だから、こうした作品は一気に読めて、読む方も気楽になる。まことに現代の滑稽本である。

 だが、最近、再び凛とした人物を描いた作品を読みたいと思っている。凛としたものを秘めながら生きる人物を描いた作品を探すが、これが意外に難しい。

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