2011年6月13日月曜日

佐藤雅美『魔物が棲む町 物書同心居眠り紋蔵』

 昨夜激しく降り続いた雨脚も少し弱まって、ただ鬱陶しい梅雨空が広がる日になっている。このところ月曜日はひどく疲れを覚えるようになってきているのだが、今日のような鬱陶しい天気の中ではなおさらである。ただ、近所の道路脇に植えられた一株の紫陽花が色鮮やかな清涼感を醸し出してくれている。紫陽花には、妙に人の悲しみを癒す力があるような気がする。

 昨夜、半分眠りながら降り続く雨音を聞きつつ、佐藤雅美『魔物が棲む町 物書同心居眠り紋蔵』(2010年 講談社)を読んだ。読んだというよりも、正確には字面を辿っていただけかもしれない。

 作者の作品は、これまでにもかなりの数を読んでおり、「物書同心居眠り紋蔵」のシリーズも、主人公の南町奉行所の例繰方同心を務める藤木紋蔵が、時ところかまわず突然居眠りに陥るという奇病のため「居眠り紋蔵」と呼ばれ、そのため出世や評価というところからは縁遠いところにあるが、実は、過去の判例(例繰方はその判例を調べて事件の判決を導く)に関する知識と推理力は抜群で、その知識と観察眼を用いて事件を解決していく人物として設定され、奇病のためにいつ首になってもおかしくない状況を戦々恐々としながらも卓越した推理を発揮していく姿が描かれているので、これまでにもこのシリーズを何冊か読んで来た。

 この作品を読んで改めて感じたのだが、以前から、佐藤雅美の文体は事実を淡々と述べていくような文体で、文章の艶というものからは遠いところにあったのだが、この作品ではますます枝葉をそぎ落として冬木立のようになった武骨な文体で出来事が淡々と語られるようになっている。ある意味で、まるで刑事調書のような観さえある。主人公の描き方も、どこか冷めたところがある。

 ここには「十四の侠客岩吉の本音」、「独断と偏見と冷汗三斗」、「親殺し自訴、灰色の決着」、「御三家付家老五家の悲願」、「魔物が棲む町」、「この辺り小便無用朱の鳥居」、「仁和寺宝物名香木江塵の行方」、「師走間近の虎が雨」の八作が収められているが、それぞれの顛末があまりにも淡々と綴られているので、特にこれといった記憶には残りにくいものとなっている。

 もっとも、「居眠り紋蔵」自身も、あまり事件には関わりたくないと思っているので、こうした記述は主人公にあった記述の仕方ではあるだろう。しかし、このシリーズの初期の頃に比べれば、少なくともわたしにとっては面白味がなくなったような気がする。

 こうした感想は、読者であるわたしの状態や状況にもよるのだが、設定や主人公像が面白いだけに、枯れすぎていて、ちょっと残念な気がした。

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