2010年7月23日金曜日

鳥羽亮『剣客春秋 里美の恋』

 「酷暑」とか「猛暑」とかいう夏の暑さを表すあらゆる言葉でも表しきれないほどのひどい暑さの日々が続いている。夜になっても暑さが去らず、湿気も多い。ますます動摩擦係数が大きくなって動くのが億劫になる。

 だが、読書の方は、宮部みゆきに続いて鳥羽亮『剣客春秋 里美の恋』(2002年 幻冬舎)を気楽に読み進めた。これは前に読んだこのシリーズの『女剣士ふたり』や『恋敵』の第1作目の作品で、神田豊島町に一刀流の道場を開く千坂籐兵衛とその娘里美の活躍を描いたものだが、父と娘という取り合わせが良いし、事件や出来事への関わり方も剣客らしい筋を通したものとなっている。

 既に、2作品を読んでいたので、娘の里美が料理屋の美貌の息子で北町奉行の妾腹の子である吉野彦四郎と恋仲であることは承知し、その出会も、ぐれていた彦四郎が暴漢に襲われているところを里美が助けたということが度々触れられるので承知していたが、この1作目の『里美の恋』でその詳細がかなり複雑なものであったことが記されている。

 吉野彦四郎は、料理屋の息子であるが母親から武士として育つことを期待され、その理由が自分の父親にあるらしいことを知って、顔も見せない父親への反発からぐれて、博打場に出入りし、自堕落な生活をし、借金を抱えると同時に、博打場を取り仕切る市蔵の罠の中で、逃れられない状態に陥っていた。

 だが、里美に助けられ、剣術の稽古の清々しさも知って立ち直ろうとする。しかし、市蔵は罠をかけ、彼を人殺しの下手人にしたて、監禁する。市蔵は彦四郎が奉行の妾腹の子であることを知って、彼を手中に収めることで身の安全を図ろうとしたのである。そのしつこさと粘着性は反吐が出るようなしつこさである。だいたい悪意をもつ者は粘着性が高い。欲のない籐兵衛や里美の爽やかさと対照的になっている。

 千坂籐兵衛は、彦四郎の母や父親の奉行、そして里美の気持ちを知って、彦四郎を救出していく。その際、市蔵に雇われた凄腕の牢人との剣の対決を覚悟し、最後に牢人と対決して、わずかの差で勝つのである。

 剣道にしても他の柔術にしても、あるいはそのほかのすべてのことにおいて、この「僅かの差」というのが、実はかなり大きな差となる。「僅かの差」は無限のひらきがあるのである。こういうことを作者は本当によく知って作品が書かれているので、作者の頭の中で想定された剣の対決ではあるが、リアリティーがある。

 千坂籐兵衛と里美から助けられた彦四郎は、無頼の徒から立ち直って、千坂の道場で剣の修行を始めることになる。娘の里美も、恋する里美になっていく。

 こういう作品は、本当に肩のこらない作品で、情景描写も優れていて読みやすい。池波正太郎の『剣客商売』も面白かったが、これも面白く読めるものである。脇役の同心や千坂家の食事の世話などをしている「おくま」という名前のとおりの女性も物語に妙味を沿えている。

 今日は出かけなければならず、炎天下を歩き回るのもどうかと思って車を使うことにした。新しい車が来週納車されるというので、この車に乗るのもあと僅かになった。長年使ってきたのでやはり少しもったいない気もするが、故障も多くなっているからやむを得ない。『剣客春秋』のシリーズは、他にも図書館から借りてきているので、今夜もその続編を読むことにする。

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