2013年3月6日水曜日

高橋義夫『ご隠居忍法 不老術』

 温かさに誘われて土中の虫たちが顔を出すという啓蟄も過ぎて、ようやく昨日あたりから春を感じる日々となり、今日は、気温も20度近くまで上がって穏やかに晴れ渡っている。「春は平和にのんびり」が一番似つかわしい。

 ただ、中国からの大気汚染や黄砂が広がって、花粉も大量に飛び、「う~む」と思ったりするし、ちょうど中国で「全人代」が開催され、新たな富国強兵策が打ち出され、富国強兵策が向かう先が帝国主義的侵略であることを思うと、「騒がしい国」を隣に控えて何とも言えない気になったりする。「あげひばり、名のりいで、かたつむり、枝にはひ、神、空に しろしめす、すべて世は 事もなし」とはいかないものだろうか。

 閑話休題。少し軽いものをと思って、高橋義夫『ご隠居忍法 不老術』(2001年 中公文庫)をおもしろく読んだ。これは、『続・ご隠居忍法 黄金谷秘録』として1997年に実業之日本社から出されたものを文庫化したものである。「続」と付いているように、このシリーズの2作目で、このあとに続く『鬼切丸』、『唐船番』、『亡者の鐘』などを既に読んでおり、四十歳の声を聞くとさっさと家督を息子に譲って隠居した元公儀隠密の鹿間狸斎の活躍を描いたもので、中年の悲哀なども盛り込まれて娯楽時代小説のおもしろさがある。

 彼は隠居して、奥州笹野藩(現:山形県米沢市)の五合枡村というところで暮らしているが、「おすえ」という手伝いの娘に手をつけて子どもをもうけ、気の強い実の娘のひんしゅくを買っている人物だが、元公儀お庭番伊賀忍者としての抜群の技量をもっている。当然、薬草などにも詳しく、生薬を作って生計の足しにしたりしている。

 本書では、その彼が男として役に立たなくなり、烏骨鶏の卵などの回春を試みるがうまくいかないところから始まり、ふとしたことから笹野藩領北部で隣藩と接する霧降山での不可解な事件と関わっていくという展開がされている。

 霧降山の麓で、白骨化された人の手首が発見され、なおそのあたりで多数の殺害遺体が発見されたのである。近隣の村々から行くへ不明になった男たちの話も伝わってくる。狸斎の友人で娘の義父である元郡奉行の新野耕民も何事かを秘しているようであり、公儀隠密も関わっているような事件であった。

 霧降山山麓は、その昔、銅山や金山があり、今は廃鉱になってしまっているが、どうやらそこに隠し金があるようで、狸斎は、この事件が隣藩の戸沢藩の奏者番と天領の代官、そして京都の金工が関わって、金の横流しをしていることをようやく突きとめていくのである。

 物語の大筋としてはそれだけだが、五合桝村の祭礼としての相撲取りがあったり、その相撲取りが狸斎を助ける振りをしながら、実は隣藩の奏者番と繋がっていたり、新野耕民が幽閉されたのを助け出したり、天領の代官の悪巧みがあったりするし、真相を突きとめようとする狸斎が襲われたり、様々な事件が勃発していく。その間に、狸斎の回春の苦労が盛り込まれ、なかなかの妙味で物語が展開されていくのである。

 隠し金山を巡る物語では、その多くが最後は金山が爆破されたり、跡形もなく土中に埋没したりする展開になるが、本書も、黄金谷という隠し金の埋蔵地は土砂に埋もれていく。こうした展開は、ひとつの安心感と期待感が交差して、気楽に読める物語となる。気楽に読める一冊だった。

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