2013年4月23日火曜日

高橋義夫『元禄秘曲』


 ようやくまたほんの少し暖かさが戻ってきた。日曜日(21日)は真冬並みの寒さで震えてしまったが、ほっとしている。

 最近、我が家の家電製品が買い替えの時期を迎えているのか、あまりうまく機能しなくなっているのだが、見回してみて、これらはなくても生活できるがあれば便利という類だなあ、と改めて思ったりした。パソコンも、またそろそろ限界に近づいて、買い替えの時期かもしれないとも思う。使っているOSが二時代前のOSである。

 それはともかく、高橋義夫『元禄秘曲』(2009年 文藝春秋社)をあっさりと、しかし面白く読む。高橋義夫は多才な作家だと思っているが、この作品は、「生類憐れみの令」で有名な五代将軍徳川綱吉のころ、1684年(貞享元年)に江戸城中で老中堀田正俊が従叔父に当たる若年寄の稲葉正休(いなば まさやす)に刺殺された事件を背景にして、その後の非遇を受けた堀田家の家臣による抵抗などを盛り込みながら、一人の青年武士の活躍を描いたものである。

 江戸城中での堀田正俊刺殺事件は、今も多くの謎を残したままで、本書でその事件が直接取り扱われるわけではないが、堀田正俊が綱吉の「生類憐れみの令」に反対していたことや、その後幕府の中で権勢を誇っていくようになる柳沢吉保などとの関連で、暗殺陰謀説が出てきたりする。

 ともあれ、本書の主人公は、旗本の次男坊で冷や飯食いである花房百助という青年武士で、彼は兄が家督を継いだ家を出て、本所の石川礫斎の一刀流の剣術道場の内弟子として住み込んで剣術修行をしているのである。彼はその道場で、本所の小天狗と呼ばれるほどの腕をもち、市中で起こる事件に関係したりしていくのだが、彼の師である石川礫斎は、かつては堀田家に仕えた家臣で、堀田家が殿中事件後に移封されたり、減封されたりする中で身を引いて剣術道場を開いていたのである。

 花房百助と並んで大天狗と呼ばれる師範代の古木要蔵も元は堀田家の家臣で、堀田家の没落によって解雇になった家臣たちと、なんとか意趣返しをしたいと望んでいた。堀田家の遺臣たちは、権勢を誇るようになった柳沢吉保が主君の堀田正俊の暗殺を企んだと思い、柳沢吉保を誅しようと企てていたのである。その企てには、医師をしている石川礫斎の弟も関係ししていた。

 そして、花房百助が慕って行くへ不明になっていた叔父も、実は、幕府目付の隠密同心として堀田家の遺臣たちの動きを密かに探っていたりしたのである。

 こうした大筋の展開の中で、女敵討ちやサド・マゾ好みの武家の妻女が殺された事件などが展開されると同時に、花房百助の縁談話や道場の隣家の旗本の娘との恋などが描かれていく。ただ、こうした事件は比較的あっさり片づいていくし、堀田家の遺臣たちの企ても、意趣返しなどを望まない石川礫斎や花房百助の活躍でうまく抑えられていき、流れるように物語が展開されるだけである。狙われている柳沢吉保が放つ刺客による剣術道場の弟子たちへの襲撃なども堀田家の恨みを晴らそうとする古木要蔵の決起を促すものとなっていたりもする、

 しかし、結末で、石川礫斎の弟が、剣によって柳沢吉保を誅するのではなく、事件を物語にしてそれを市中に配布することで、殿中の暗殺事件の真相を人々に知らせようとしたということが述べられて、元禄時代らしい結末の取り方だと思ったりした。

 全体が軽いタッチで描かれており、もう少し人間像が掘り下げられれば(たとえば、火盗改めになる「のっそり十郎」など)とは思うが、これはこれで軽く読めるような展開になっており、個人的には面白く読めた一冊だった。

0 件のコメント:

コメントを投稿