2011年8月15日月曜日

高橋義夫『御隠居忍法 唐船番』

 昨夜、陽が沈むと共に東の空にぽっかり浮かんだ丸い月をぼんやり眺めていた。気温が高いので蒼く澄み渡るような月光ではなかったが、黄白色の月は宇宙の孤独を感じさせるには充分だった。

 その月光の中で半分眠りながら、高橋義夫『御隠居忍法 唐船番』(2002年 実業之日本社)を読んでいた。これはシリーズ物の一冊で、1995年から201年までで7冊の作品が出されているうちの4作目にあたるが、ほかの作品はまだ読んでいない。だが、おおよその構成はわかる。

 主人公の鹿間狸斎(名は理助、狸斎は号)は、元公儀御庭番の伊賀者で、四十歳の声を聞くとさっさと家督を息子に譲り、隠居して、嫁いだ娘が嫁ぎ先の国元に行ったことから娘が住む奥州笹野藩(現:山形県米沢市)の五合枡村というところで暮らすようになった。隠居といってもまだ四十歳で、知力も気力もあり、伊賀者として身につけた探索力と手腕もある。彼が隠居すると同時に、彼の妻は彼の元を去ったが、五合枡村で「おすえ」という手伝いの女性との間に子どももでき、そのことで笹野藩士のところに嫁いでいる娘と一悶着あったらしい。

 娘の嫁ぎ先の義父は、笹野藩郡奉行を務めたこともある新野耕民で、主人公の鹿間狸斎とは俳句仲間の友人であり、物語では、この二人の隠居が活躍していくのである。

 本書では、久しぶりに江戸に出てきた鹿間狸斎が元の同僚たちである公儀御広敷御庭番を挨拶に訪ねる。そこで、組頭であった者から、数年前に羽後(秋田県)に探索に出て、現地で病死したと届けられている御庭番の一人が残した符丁が少し前に見つかり、もしかしたら生きているかもしれないから、その生死を確かめて欲しいと依頼される。

 彼はその依頼を受けて、羽後の久保田藩へと向かうことにする。その道中に娘の義父であり友人である新野耕民も病後回復のためにということで同行し、秋田の汐越に向かう途中で、行くへ不明の兄を捜し出そうとする女武芸者の青田志満と出会う。

 行くへを絶った御庭番が汐越に足跡を残していたことから、鹿間狸斎はまずそこで探索を始め、御庭番の失踪にはどうも松前渡りの船によるロシアとの抜け荷(道貿易)が絡んでいるらしいことがわかっていく。だが、汐越ではあまり明確な手がかりがないまま、狸斎は汐越から本庄へ向かい、そのあたりから狸斎を狙う者たちにつけ回されるようになる。そして、幾たびかの修羅場を切り抜けなければならないようになる。船頭宿や本庄藩の金蔵といわれる角屋という廻船問屋が怪しい。同行となった青田志満の兄も角屋で行くへがわからなくなている。どうやら彼女の兄も抜け荷に絡んでいるらしい。そういうことが徐々にわかっていくのである。

 彼らはさらに久保田へ向かう。そして、途中の船で海賊に襲われたりしながら津軽との国境にある能代へ向かうことになる。能代にも本庄の角屋の親戚筋の角屋があり、さらに骨董品や珍しい品を扱う宮腰という店があり、その宮腰という店が黒幕であることがわかっていく。志満の兄が足を洗おうとして殺され、海賊を装った一大抜け荷(密貿易)組織について語るのである。

 鹿間狸斎は、海賊の女を捕らえたり、殺された志満の兄の女房とその兄から事情を聞いたりして、海賊の根城が津軽との国境近くの山中にあることを突きとめ、単身でそこに乗り込んでいく。だが、捕らえられて殺されかけるところを唐船番と呼ばれる公儀隠密に助けられて抜け荷の首魁である海賊一味を打ち倒していくのである。海賊たちは山中で芥子を栽培し、阿片を作って、それでロシアとの密貿易
を図り、莫大な利益を得ていた。そして、その海賊の首魁は、実は、生死を確かめようとした元公儀御庭番であったのである。

 この物語は、いわば、羽後(秋田県)を巡る冒険活劇譚である。ただ、細かな物語が若干錯綜したところがあって羽後(秋田県)全体を網羅している抜け荷(密貿易)一味組織の実体が掴みにくいことと、探していた元公儀御庭番が黒幕であるという結末が比較的ありきたりのような気もする。これだけ大がかりな組織を造り上げる人物が阿片中毒であるというのも、なんとなく劇的すぎる気がしないでもない。豪商たちの強欲ぶりがもう少し描かれてもいいような気がするのである。

 しかし、隠居した中年が思うままに生きて、思うままに活躍し、活劇を繰り返していくというのは、娯楽小説としてのおもしろさを備えた作品だと思っている。あっさりと読める冒険譚であることは間違いない。

0 件のコメント:

コメントを投稿