2011年4月25日月曜日

鈴木英治『手習重兵衛 母恋い』

 めまぐるしく天気が変わり、少し家事をしようと掃除をし、洗濯物を干したと思ったら雨が降り出し、慌てて室内に入れたら晴れてきて、また干し直すことを繰り返したりした。でも、日常がこうして流れることも悪くないし、むしろ貴重なことだろう。柔らかな言葉を書き綴ってくださったメールをいただき、それをじっくり読みながら朝の時が過ぎていった。

 土曜日の夜に、鈴木英治『手習重兵衛 母恋い』(2009年 中公文庫)を読んだ。この作者の作品は、以前、『父子十手捕物日記 情けの背中』(2008年 徳間文庫)の一冊を読んで、親子の情や愛する人間の思いやりとか心情とかが柔らかく書かれる中で捕物帳ものとしての面白さもあって、娯楽時代小説としてはなかなかの味のある作品だと思っていたので、これを手にとって読んでみた次第である。

 これもシリーズもので、本作は、ある藩を出奔して江戸の白金村(現:港区白金)で手習い所師匠をしている興津重兵衛を主人公にしたシリーズの7作目だが、軽妙な語り口の中で様々な人間模様が描かれて軽く読める読み物になっている。もちろん、軽く読めるといっても、主人公が、深い事情があって友人を殺して出奔したという重荷を背負った人物であり、取り扱われる事件が軽く扱われているわけでも人間観が浅いわけでもない。

 ただ、主人公の友人となった奉行所定町廻り同心「川上惣三郎」と彼を慕っている中間で事件の探察を手伝う「善吉」の掛け合い漫才のような会話の軽妙さが光って、物語をユーモラスに仕立てているので、そうした印象が残るだけなのであり、また、その「川上惣三郎」と対称的な主人公の「興津重兵衛」の寡黙だが剣の腕も明晰で判断力もあり、思いやりも深くて、美男で、恋する女性に一途な姿も、理想的すぎると言えば理想的すぎるところや、彼が恋する女性も思いやり深く一途であるところなど、それぞれが典型的な人物となっているところなどが、あまり肩が凝らずに読めるところである。

 本作では、興津重兵衛を仇だと偽って保護を求めて転がり込んできた掏摸として育てられてきた女性のことから米問屋の乗っ取り事件に繋がっていく事件の顛末が描かれるのだが、事件の顛末はともかく、そこに手習い所に通ってくる子どもの産みの親を慕う姿やすりの娘と彼女を育てた掏摸の親方との関係、あるいは女に転がり込まれて困惑する主人公や恋人の姿など、それぞれに、ある程度の時代小説のパターンが用いられているとはいえ、それが巧妙に組み立てられているので、展開が面白くなっている。

 よくは知らないが、おそらく、このシリーズの作品もけっこう売れている作品だろうと思う。そういう要素がふんだんに盛り込まれているからだが、何故、こういう作品が現代の勤め人に好まれるのかを分析するのも面白いだろうと思う。もう少し読んで見てから、考えてみたいとは思っている。

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