2011年4月29日金曜日

高橋義夫『花輪大八湯守り日記 湯けむり浄土』

 薄く雲が広がり気温も低めだが、爽やかで新緑が嬉しい。昔「天皇誕生日」だった今日を「みどりの日」とはよく名づけたものだとつくづく思う。今朝、起き出して新聞を取りに玄関に行った時に数冊の時代小説が置いてあることに気づき、どなたが置いてくださったのだろうと思っていたら、脚本などを手がけておられるT氏が訪ねてきてくださったようで、せっかくおいでくださったのに、昨日は外出して会えずに残念だった。ブログをご覧になって連絡をくださり、彼が同級生だったことが最近わかって、今度会うことにしている。

 閑話休題。高橋義夫『花輪大八湯守り日記 湯けむり浄土』(2004年 中央公論新社)を読む。これは先に読んだ『花輪大八湯守り日記 艶福地獄』(2009年 中公文庫)のシリーズ第一作目の作品で、現在の山形県新庄市の肘折温泉の湯守りとなった主人公の花輪大八のユニークさや当時の雪深い湯治場を巡る人々の人間模様、関わっていく事件の展開や全体を包んでいる大らかさなどが面白く、その第一作目の主人公が湯守りとなる経過を描いた一作目を読んだ次第である。そして、この一作目も、一気に読むことができる面白さをもった作品だった。

 山形新庄藩で在郷の代官を務める六十石の花輪家の次男の部屋住みであった大八は、城下で横暴を振るっていた黒川武平に捕らわれた友人を救い出すために武兵と対決し、祖父から習った具足術で武平を傷つけるが、大事にしないために私闘とされ、喧嘩両成敗ということで城下を追放され、兄や周囲の人々の計らいで雪深い鄙びた湯治場である肘折温泉の湯守りとなる。

 主人公の剛胆で物怖じしないが思いやりのある真っ直ぐな気質は、湯治場の人々に受け入れられ、湯治宿や村の人たちからも次第に認められるようになっていく。その中で、病を抱えた武士の親子と出会い、その武士が仇打ちの旅にあることを知っていく。だが、武士の病は重く、ようやく仇のいるところを探し出すが、その仇も銀山で働くうちに死病を患っていることを知る。やがて、武士の親子が仇と狙う相手は銀山で史に、武士も、己の一分を通しながら死んでいく。そして、大八は残された息子を湯治場の医者のところで働き、医者になるように計らっていくのである。

 そうしているうちに、私闘で破れた黒川武平が修行を積んで私闘の決着をつけるために現れる。花輪大八と黒川武平は雪の中で闘いを繰り広げ、、二人とも雪崩に巻き込まれてしまい、武平はもはや闘うことができなくなって私闘に決着が着いていく。

 こういう展開が、鄙びた肘折温泉の風情やそこで暮らす人々の暮らしぶり、主人公の大らかで物事に執着しない姿などを合わせて、時にはユーモラスに、時にはシリアスに描かれて、物語全体に何とも言えない柔らかな雰囲気が包んでいるのである。山形といえば、今頃は桜がきれいだろう。

 こうした作品は、疲れた時など、本当に気楽に読めていい。このシリーズは、第二作目があるので、機会があればそれも読んでみたい。

2 件のコメント:

  1. はじめまして。「電網郊外散歩道」というブログを綴っております、narkejp と申します。高橋義夫さんの本シリーズは、先に第二作『若草姫』を読んでしまい、このたび本書をおもしろく読み終えたところです。当地は、舞台となっている山形県内ですので、地名にも思わず反応してしまいます(^o^;)>poripori

    返信削除
  2. コメント、ありがとうございます。山県にはなかなか縁がないのですが、舞台となっている肘折温泉にはいつか行ってみたいと思っています。

    返信削除