2011年5月2日月曜日

羽太雄平『芋奉行 青木昆陽』

 薄く雲が広がっているが、予報では雨は降らないと出ていたので、朝から寝具を洗濯したり干したり、寝室のカーテンを洗ったりして家事に没頭していた。それから、今年は数十年ぶりくらいにこの連休に特別な予定はないので、以前から手を着けてまだ終わらない原稿の整理などをしていた。近くのホームセンターに日用品の買い出しにも行こうかと思っている。

昨夜は少し疲れも覚えていたのだが、作った「肉じゃが」がいたく美味しくできて、「これはうまくいった」と思いながら、羽太雄平『芋奉行 青木昆陽』(1997年 光文社)を読んだ。

これは、江戸中期に幕府の飢餓対策の農作物となって関東地方に広まっていったサツマイモ栽培の試作を行い、後に「甘藷先生」とまで呼ばれた儒学者青木昆陽(1698-1769年)についての伝記小説ではなく、青木昆陽が大岡越前守忠相の命を受けて徳川領となっていた甲斐(甲府)の古文書調査を行ったことに基づいて、その昆陽が幕府の甲府埋蔵金探索に用いられたという設定をした、ある種の秘宝探索の冒険小説である。

 江戸南町奉行を長年勤め、名奉行と人気を博した大岡越前守忠相は、その後、寺社奉行となり、大岡越前守に見出された青木昆陽はその配下として古文書調査を行っているが、この作品では、その際に公儀お庭番が同行することになり、お庭番は、困窮していた江戸経済を救うための一策としての武田家の埋蔵金探索を密かに大岡忠相から命じられ、昆陽の古文書調査の名目をかりて、昆陽をも巻き込んで探索を行っていくという筋書きになっている。

 作中の人物がユニークで、青木昆陽はあまり風采のあがらない独身男であるが、儒学者らしく洞察力に優れたところがあり、古文書調査を命じ、お庭番まで同行させた大岡越前守の真意を察していく人物であとして描かれている。また、荷物持ちの中間として同行することになったお庭番は、忍びの者としての相当な力量をもっているが、ケチで金勘定にうるさく、また、昆陽の用心棒という形で同行して剣の修行をしようとする旗本の次男坊は、どこかのんびりしたところがあって、この三人が、埋蔵金探索を阻止しようとする旧領主の柳沢家との争いを展開していくのである(五代将軍綱重のお気に入りとなり権勢を誇った柳沢吉保は甲府領主となった)。

 もちろん、実際に武田家の埋蔵金などは発見されていないのだから、昆陽らの調査によって埋蔵金が埋められているらしい場所は見つかるが、柳沢家によって爆破され、真偽がわからないというところで結末となるのだが、甲州街道を旅していく過程での姿や、昆陽の妻女となる大柄の女性との出会など、随所に作者の想像力が発揮されて面白く読める。

 この作者の作品は初めて読むが、かなり綿密な歴史知識に基づいて、しかも縦横にそれが自然な形で織り込まれているので、物語として面白いものになっている。本のタイトルから青木昆陽について書かれた作品かと思わせられるので、タイトルで損をしている気がしないでもない。作者には1991年の作品で第2回時代小説大賞を受賞した徳川家康の秘宝を巡る争いを描いた『本多の狐』という作品があり、こうした展開はお手の物のような気もする。

 青木昆陽という人は、学者としては極めて真面目だがあまり面白味のない人だと思っていた。しかし、こういう作品で描かれると親近感が湧くのは間違いない。昆陽を描いた小説に、わたしは初めて出会った。

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