2010年6月16日水曜日

宮部みゆき『あやし~怪~』(1)

 本格的な梅雨入りをしたようで、重い雲が広がって、湿度が高い。ときおり晴れ間が見えたかと思うと雨が滴るように降る。先日から、宮部みゆき『あやし~怪~』(2000年 角川書店)を読んでいるが、集中して読む時間がとれずに、なかなか読み進まない。

 これは、強欲や嫉妬心、怨念、恨みといった人の心のない奥に潜む悪が「あやし(怪)」として出現したものとして描き出した短編集で、「居眠り心中」、「影牢」、「布団部屋」、「梅の雨降る」、「安達家の鬼」、「女の首」、「時雨鬼」、「灰神楽」、「蜆塚(しじみづか)」の九編が収録されている。

 宮部みゆきは、短編よりも長編の方が物語の展開が十分丹念に進むし、設定されている主人公の特質がよく現れて読み応えがあるように思うし、本質的に長編作家だろうと思うが、短編も、短編なりの創作技法が試みられたりして、作者の意欲的な取り組みを感じることができる。

 たとえば、「陽牢」は、始めから終わりまで独白(モノローグ)の形が取られており、商家の一家全員毒殺の事件の事情を調べに来た同心に、その商家に仕えていた番頭が答えていくという形で、そのモノローグによって、息子夫婦に座敷牢に閉じ込められて殺された母親の言い尽くせない恨みが亡霊のようになって出現し、母親に手ひどい仕打ちをした息子夫婦をはじめとする商家が滅びていく姿を描いたものである。モノローグで物語を展開する手法は、ことさら新しいものではないが、物語作家としての作者の力がよく発揮されている。

 貧しい家庭で幼い頃から奉公に出なければならなかった姉妹の深い愛情を描き、亡くなった姉によって守られる妹の姿を奉公のつらさと共に描いた「布団部屋」や、その人の悪意の姿によって「鬼」が見えていくという「安達家の鬼」などは、作者が人間の思いやりや情けに対してもつ温かみがあふれた傑作だと言えるだろう。

 まだ最初の五編しか読んでおらず、残りの四編については、今夜読み終えるだろうから、明日にでも記すことにする。

 先夕、カフカ論の発表のために池袋まで出かけた折、少し休むために、帰りに渋谷の東急デパートの中にあるお蕎麦屋に寄って、久しぶりにおいしいお蕎麦を食べることができた。江戸の昔から関東地方はうどんよりもお蕎麦が主流だが、なかなかおいしい蕎麦に行き当たらなかった。一昨年の秋、長野の戸隠まで、戸隠の伝説を訪ねると同時に蕎麦を食べに研究会の仲間たちと出かけたが、そこでも、本場と言われる蕎麦だがあまりおいしいとは思わなかった。改めて、東京は何でもあるとつくづく思う。

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