晴れの特異日らしく爽やかな日になった。朝から掃除や洗濯などをし、家事に勤しんでいた。夏の使っていた扇風機を処分し、少し早い気もするがテーブル式のコタツなどの暖房器具を準備したりした。もともと寒がりなので、早めに準備をしておけば、ちょっとは安心。
土曜日(8日)の夜に、岳真也『千住はぐれ宿 湯屋守り源三郎捕物控』(2008年 祥伝社文庫)を読んでいたので記しておくことにした。
作者の岳真也という人は、文庫本カバーの著者紹介によれば、1947年生まれで、慶応義塾大学の在学中から作家活動をされ、50歳を過ぎた辺りから時代小説などを手がけておられるらしく、法政大学の講師を勤められているということで、本書の文中にも、ちょっとした説明などにそれらしい感じがしたりする。
本書は、このシリーズの三作品目ということだが、前の『湯屋守り源三郎捕物控』や『深川おけら長屋』などは、まだ読んでいない。しかし、物語のだいたいの設定はわかり、南町奉行を兄にもつ空木源三郎(うつき げんざぶろう)は、家を出て、深川の「おけら長屋」という貧乏長屋に住み、深川一帯の湯屋の湯屋守り(用心棒のようなもの)をしながら、奉行である兄の密命を受けて過ごしている。この「おけら長屋」には、関亭万馬と名乗る戯作者などの面白い人物が住み、「おけら長屋」の住民の馴染みの蕎麦屋である信濃屋には、父親の後を受けて女岡っ引きとなった「おみつ」がいて、源三郎には親が勧める娘がいるが、源三郎は「おみつ」に密かに想いを寄せている。
だいたいこういう設定で、本作は、瓜ふたつのそっくりな人物が出てきたことから話の筋が展開されていくのであるが、はじめに、女湯を覗いた罪で関亭万馬が捕らえられ、源三郎らが万馬を救い出すために奔走して、犯人が関亭万馬にそっくりな人物であることがわかっているという第一章「万馬の災難」から始まる。
その事件が一段落した後、源三郎は兄から下野(しもつけ)の国藤浦藩の探索を依頼される。藤浦藩では、藩内の権力争いに絡んで辻斬り騒ぎがあり、「おけら長屋」に住んでいた元藤浦藩士で浪人している黒米徹之進が絡んでいたこともあり、源三郎は、おそらくその辻斬り事件を解決した経緯があるのだろう(その顛末は前作などで記されているのだろう)。事件解決後の藤浦藩の様子を探って欲しいと依頼されるのである。
そこで、日光への参詣という名目で、源三郎、「おみつ」、万馬、万馬と親しい「お香」、「おみつ」の手下で健脚の健太、などの「おけら長屋」の住人たち一同と日光に向けての旅が始まるのである。そして、千住にきたとき、彼らが逗留した宿の内儀が「おみつ」とそっくりであることがわかったり、千住で老舗宿どうしの争いに巻き込まれたりするが、一応は日光への参詣を果たす。藤浦藩に復帰した黒米徹之進とも途中で合流し、藤浦藩の後処理がきちんと進んでいることを知らされる。
ところが、日光の近くの湯治場で、彼らが千住で逗留した宿の内儀が拐かされて、金と秘宝の千手観音が狙われていることを知り、急遽、千住にもどる。しかし、彼らが千住にもどったときには、既に宿の内儀は拐かされていた。その裏には、大がかりな誘拐犯たちがうごめき、江戸でも同じような事件が頻発していた。
源三郎らは、「おみつ」が拐かされた内儀とそっくりなのを利用して、大がかりに仕組まれた誘拐犯たちを捕縛していくのである。そこには、老舗宿の亭主に恨みを抱く凄腕の侍の影があり、源三郎は彼と対峙していくのである。
話の大筋は以上のようなことであるが、小さな事柄の歴史的経過などがわかりやすく記されていて、読みやすいものになっている。物語の設定などに特に目新しいものはないし、登場人物もよく似た話がたくさんあるが、文章が平易なのがいい。娯楽時代小説としての面白さが十分にある作品だと思う。
千住や日光の様子なども丁寧に描かれて、日光などに行った時のことを思い出しながら読んだりした。本書の内容とは関係のないことがだが、日光は本当にいい。日光東照宮は徳川権力の象徴のようなもので華美の権化のようなものだろうと思っていたが、実際に行ってみると、その佇まいは自然の前で謙遜で、自然に静かに溶け込むような精神文化の高ささえ感じられ鵜ようなところだった。これを指導した「天海」は、やはり、ひとかどの人物だったに違いないなどと思ったりした。
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