2011年2月23日水曜日

泡坂妻夫『からくり東海道』

 ニュージーランドの地震災害、リビアの社会情勢、食料と原油価格の高騰、国内の政局といったニュースが矢継ぎ早に飛び込んでくる中で、天気は春の兆しを思わせる好天となり、空が青い。風はまだ冷たいが、チューリップが芽を出し、蕗のとうが大きく成長している。「すべからく、世はかくありなん」と思ったりもする。

 このところ何だか疲れを覚えているのか、昨夜は午後7時頃から眠ったり起きたりしていた。そういう中で、推理作家である泡坂妻夫(1933-2009年)の時代小説『からくり東海道』(1996年 光文社)を読んでいた。

 読み終わって、これは消化不良を起こしそうな作品だ、というのが最初の印象だった。物語は、徳川幕府初期の財務体制の一切を担当し、死後に家康によって取り潰された大久保長安(1545-1613年)の隠し金が、江戸北西の13万坪以上という広大な敷地の「戸山山荘」とも呼ばれた尾張徳川家の下屋敷にあるのを、その「戸山山荘」に隠されていた謎を解き明かして、探し出し、幕末が近い時代の第十一代尾張徳川家城主であった徳川斉温(なるはる-1819-1939年)の御落胤問題や尾張徳川家内部の勤王派と佐幕派の問題とも絡み合わせ、その隠し金の争奪戦を描いたものである。

 尾張徳川家の下屋敷である「戸山山荘」は、三代将軍徳川家光の娘が尾張城主に嫁ぐ時に与えられ、以後造園され続け、七代目の尾張徳川家の城主であった徳川宗春が吉原の遊女春日野を身請けして住まわせた際に、春日野を楽しませるために東海道五十三次を模して造園され、それと箱根にあると伝承されている大久保長安の隠し金を絡ませ、箱根というのが戸山山荘で模された箱根ではないかと突きとめていくのである。

 それを突きとめていくのが、かつては角兵衛獅子の児であった男女と徳川斉温の側室の子で、斉温の側室であった「おまん」(お里津)が、実はベトナムの滅亡したタイソン王朝の姫で、難を逃れて海上を漂流していたのを助けられた女性であったということまで加わり、物語は江戸時代の長い歴史と地理的な広がりを見せていく。

 だが、物語は、母親がベトナムのタイソン王朝の姫であったという証拠の品を「戸山山荘」に探しに行って、そこで、保身と金欲で斉温の御落胤の暗殺から大久保長安の隠し金の争奪まで企てた男の死と、江戸市中に起こった火事の飛び火で「戸山山荘」も火事となり、それに主人公たちが巻き込まれるところで終わる。

 江戸初期の大久保長安が隠した金を安政の時代に探し出すという長い歴史を背景に、ベトナム王朝の話まで絡んだ壮大な謎解きだが、結末はあっけなく物足りない気がするように感じたのである。最後に、主人公たちが飛翔してベトナムに向かうという幻が描かれているが、主人公たちの「自由」というのがそういう形で描かれるのも味気ないような気がした。

 作者は自ら奇術に凝るほどトリックや謎解きに詳しく、ここでも「戸山山荘」の謎解きが奇抜な発想で面白いし、文章も途中の展開も、さすがに直木賞作家の作品だと思っていたのだが、終わりまで読んで、正直、「えっ、これで終わるのか」と思ってしまった。作者には『宝引の辰捕者帳』という時代小説のシリーズがあるので、今度、それを読んでみようとは思っている。

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