2011年2月26日土曜日

南原幹雄『付き馬屋おえん 女郎蜘蛛の挑戦』

 昨日は春を思わせる陽気で、何か徳をしたような気分さえ与えられたが、今日は風が冷たく、近くのクリーニング屋の旗がはためいている。

 昨夜は少し遅くまで起きていて、南原幹雄『付き馬屋おえん 女郎蜘蛛の挑戦』(1997年 双葉社 2004年 角川文庫)を読んでいた。この作者の作品も初めて読むのだが、これはシリーズ化されていて、本書はその三作品目らしい。

 「付き馬屋」というのは、遊郭であった吉原の焦げついいた借金を取り立てる取り立て代行をする稼業で、吉原で遊んだ客の後に付いていってその代金を回収することから「付き馬」と呼ばれたものである。本書では、亡くなった父親の後を継いで、若くしてその「付き馬稼業」をする弁天屋の「おえん」という美貌の女性の小気味のいい活躍が、一話完結の連作として描き出されている。

 遊郭の吉原での話が中心なのだから、当然、彼女が扱う事柄は、男と女、そしてお金にまつわる話であり、表面の装いに隠された、いわば「意地汚い」裏を暴くことが作品のテーマであり、本書でも、潰された海苔問屋の娘が吉原に身売りされ、元の店の奉公人で、その海苔問屋を潰して自分の海苔問屋をもった男に買われ続け、その代金さえ踏み倒されるという状況の中で、「おえん」を初めとする付き馬稼業の弁天屋の手代たちが、海苔問屋の乗っ取り事件を暴き出して、遊興代金を回収するという第一話「おいらん地獄」や、人格者で大店の主人として治まっていた男が、どうしても昔の枕探し(泥棒)の癖が止められずに、吉原で枕探しをしてしまうことを暴き出す第二話「吉原枕探し」など、人間には表と裏があって、その裏を暴き出すというような形で物語が展開されている。

 本書では、こうした作品が七話収められており、その中で、表題作ともなっている第四話「女郎蜘蛛の挑戦」では、網を張ってそこにかかった餌を食べる女郎蜘蛛に似た美貌の女性「おとよ」が、「おえん」に男を使って挑戦してくる好敵手として登場し、この「おとよ」と「おえん」の確執が、シリーズの中で何度か描かれているようで、既に一度、二人の対決が行われ、本書では、そこで破れた「おとよ」が「おえん」に復讐を企てるという筋立てになっている。

 全体的にこういう作品は、「人には隠された裏がある」というだけの話なのだが、一話完結の連作として、人のよこしまな意地汚い裏が様々に描き出され、そこに遊郭という苦界で苦しむ女の姿やそれなりの情をもつ姿があり、娯楽小説として読ませるものがある。

 幕切れが、「おえん」を中心にした弁天屋の手代たちが、悪意をもって遊興代金を踏み倒そうとする男たち(あるいは女)のところに踏み込んで行き、そこで「おえん」が啖呵を切って悪行を暴露し、代金を回収するという同じパターンであるとはいえ、そうしたパターンも、ちょうど『水戸黄門』の印籠のように、作品の妙味といえば言えないこともないし、代金さえ回収できればそれでいいという付き馬屋稼業に徹した姿も爽快感を残すものとなっている。

 個人的な好みからいえば、どちらかといえばお金が絡んだ男と女の話はあまり触手が伸びる話ではないが、比較的作品数の多い作者の作品を一度くらいは読んで見ようと思っていたところであった。

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