2010年2月18日木曜日

藤原緋沙子『潮騒 浄瑠璃長屋春秋記』

 昨夜半から降り出した雪が積もり、再び雪景色が広がった。朝のうちは曇って寒かったが、午後からは予報のとおり陽が差して来ている。姪が仕事の研修でこちらに来たので寄りたいという連絡があって、部屋を少し片づけたり書物を整理したりして、夕方までに今日の予定の仕事を済ませようとPCに向かっていた。

 昨日の夜、「あざみ野」の山内図書館から数冊の本を借りて来ていたので、昨夜は藤原緋沙子『潮騒  浄瑠璃長屋春秋記』(2006年 徳間文庫)を読んだ。この作者の作品は、『見届け人秋月伊織事件帖』のシリーズや『渡り用人 片桐弦一郎控』のシリーズなどを何冊か以前に読んでおり、プロットのうまさがあったので読んでみることにしたのである。『潮騒 浄瑠璃長屋春秋記』は、このシリーズの二作目だろうが、徳間文庫のカバーではシリーズの何作目かの数字がない。

 このシリーズは、理由もわからないままに失踪した妻を探して主人公「青柳新八郎」が浪人の身となり、口入れ屋(仕事斡旋所)の仕事をしたり、長屋の住まいに「よろず相談」の看板を掛けて相談事を引き受けたりして糊塗をしのぎながら、様々な事件を解決しつつ、少しずつ愛妻の失踪の理由と行くえ探っていくという筋立てで物語が展開されている。

 『潮騒』には表題作のほかに「雨の声」、「別れ蝉」の二話、合計三話が収められているが、第一話「潮騒」は、貧乏御家人の養女となった娘が、養家からひどい仕打ちを受け、とくに養母の金策のために茶屋奉公に出されたり、結納金目当てに意に沿わない男のところに嫁に出されようとしたりするのを主人公の青柳新八郎が救っていくという話であり、第二話「雨の声」は、青柳新八郎の郷里から出てきた百姓の依頼で、殺人事件を目撃した娘を救出して、その娘の縁談を無事に進ませていくというもので、第三話「別れの蝉」は、事情があって浪人している青年武士が浪人しなければならなかった事情の真相を突きとめていくというものである。

 いずれも主人公に仕事を世話する口入れ屋、その口入れ屋の仕事をする友人、長屋に住んで主人公に密かな思いを寄せいている女性、また、それぞれの事件の複雑な人間模様と背景などが描かれて、面白くは読める。

 『潮騒』では、失踪した妻が、禁書令によって捕縛されて死んだ蘭学者の実の子どもで、妻は江戸を逃れてきたその父である蘭学者の世話をするために失踪したのではないか、そして夫に類が及ぶのを恐れて捕縛を逃れるために身を隠しているのではないか、ということが暗示されている。

 しかし、辛口になるかもしれないが、こうした設定は、たとえば藤沢周平の『用心棒日月妙』での設定や登場人物、新しいところでは佐伯泰英の『居眠り磐音 江戸双紙』などの設定と類似していて、あまり新鮮味がないし、前に読んだ彼女の『見届け人秋月伊織事件帖』などと比べると文章も荒く、人物の描写も通り一遍のような気がしてならない。登場人物たちの生活感も、もちろん書かれてはいるが、あまり実感がない。いくつものシリーズを同時に書いて作品を量産しているということも目にするので、少し残念な気がする。

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