2010年2月19日金曜日

六道慧『径に由らず 御算用日記』

 少し晴れ間も見えた空が、今は薄墨色の雲に覆われている。昨日までの寒さは少し緩んだかもしれないが、変わらずに寒く感じる。ただ時折、陽が差してありがたい。

 昨夜遅く、フジテレビで放映されている『のだめカンタービレ フィナーレ(アニメ)』を見ながら、六道慧(りくどう けい)『径に由らず(こみちによらず) 御算用日記』(2008年 光文社文庫)を読んでいた。この作者の作品は初めて読むし、作者についても、東京両国生まれでSFファンタジーなどを執筆後に時代小説を書いているぐらいしかわからなかったが、村上豊という人のカバーの絵が気に入っているので手にした次第である。

 この作品は、『御算用日記』というシリーズの八作目で、文化・文政の頃(1800年代の初期)に、能州(能登-現:石川県)から出て来て二人の個性的な姉と暮らしながら、その姉たちの多額の借金のために幕府御算用者とならなければならなかった主人公「生田数之進」とその友人である「早乙女一角」とが、幕府目付(検察)の依頼を受けて、各藩の内情を調べていくというものである。

 「御算用者」というのは、要するに勘定方(経理)で、歴史的には、この名前を使っていた加賀藩の「御算用者」が著名で、たぶん作者もそこから主人公を能登の出身としたのだろうと思われるが、作中では、「幕府御算用者」として、幕府目付役の指示のもとで、各藩の不正を暴く密命を受けて取潰しの証拠を集める役割を果たす者として使われている。

 主人公の「生田数之進」は、姉たちに頭が上がらずに茫洋とした性格であるが、物事を見抜く目と知恵のひらめきをもち、彼の知恵は「千両智恵」と呼ばれるほどで、同じ長屋に住む人たちや周囲の人たちからも頼りにされている。友人の「早乙女一角」は、物事にこだわらないさっぱりした性格で、武芸百般の歌舞伎役者顔負けの色男であり、二人はそれぞれ認めあい、助け合って、深い信頼で結ばれており、上司となった目付も、できるなら諸藩を取り潰したくないという人情家である。

 主人公の上の姉ふたりのひとりは着るものに目がなく、もう一人は食べるものに目がない。自意識も高く、弟の生田数之進に厳しく辛らつである。かろうじて惣菜を作って売っているが、商売敵もあり、その商売敵が数之進に夜這いをかけたりもする。姉の惣菜を売っている娘や大食いの姉を利用しようとする商人、その姉に惚れている友人の早乙女一角の舅など、それぞれ多彩で特徴あふれる人物たちが脇役で物語を進展させる。生田数之進は身分違いの姫に恋をし、腑抜けのようになったりもする。

 『径に由らず』は、女色にふけり芸事を好むどうしようもない藩主をいだく丹後の鶴川藩が、それにも関らずに五年の間に借財を半分に減らすということの裏側に隠されたものを、数之進と一角が探索を命じられて暴いていくというもので、物語の展開には荒唐無稽の面白さがある。

 ただ、文章は荒い。日本語の美文の中に込められている「情」もあまり感じられない。時代や社会背景に対する考察にも少し曖昧なところがある。しかし、物語の展開と登場人物たちは、それぞれが誇張された姿であるとはいえ、面白い。作者は青少年向けの伝記小説やSFファンタジーを書いてきたそうだが、そういう一面が時代小説の中でも生かされているのだろう。今のこの国のファンタジーには思想性が欠けていて、この作品がそうだとは言えないし、この作者の作品はほかにも多くあるから、少なくともこのシリーズだけは読み終えた後でしか言えないことではあるが、そうした現代に書かれたひとつの時代小説のファンタジーと言えるかもしれない。

 今日は、陽も差す時が時折あるので、山積みしている仕事を早く片付けて、散策にでも出よう。

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