2010年1月11日月曜日

佐藤雅美『半次捕物控 泣く子と小三郎』

 今にも雨か雪が降り出しそうな空が広がっている。昨夜、夕食を食べてすぐから12時間余りも眠ってしまった。途中何度かトイレに起きたほかは、いくつかの脈絡のない夢を見ていたので、眠りは浅かったのだろう。月曜日は「家事の日」と決めてはいたが、8時ごろ起き出して、何もせずにぼんやり過ごしていた。冬眠の季節は、時々こういうのがあるなぁ。

 一昨日の夜と昨日の夕方、佐藤雅美『半次捕物控 泣く子と小三郎』(2006年 講談社)を読んだ。これはこのシリーズの5作目で、8日(金)に記したシリーズの3作目『命みょうが 半次捕物控』(2002年 講談社との間には4作目『疑惑』があるが、3作目に登場した蟋蟀小三郎が、主人公半次の妻の働きによって国表である越前丸岡藩に無事に帰された後、再び、江戸勤めとなって江戸に帰って来たところから物語が始まっており、彼と半次の遠慮のない絶妙なやりとりからすれば、3作目の続きとも言える作品となっている。

 ただ、表題からして、前々作は『命みょうが 半次捕物控』であったものが、この作品は『半次捕物控 泣く子と小三郎』になっており、より主人公の半次の捕物帳が詳しくなって、一つ一つの事件が詳細に描かれ、蟋蟀小三郎も味のある脇役ぶりにとどめられている。

 その代わりに、蟋蟀小三郎が世話をしてくれと半次のもとに連れてきた小坊主の素性が、物語を追うに従って次第に明らかにされていくという線が一本通されていく構成がとられていて、この辺りはさすがに巧みと言わなければならないだろう。

 この小坊主は、本名が久保恒次郎といい、対馬藩のお家騒動にからんで、敗北した父親が遠島となり、母親が死んでいることが分かる。恒次郎は半次の家に厄介になりながらその家の幼い養女とも仲良くなり、手習所にも通い、秀才と誉れが高くなり学問にはげんでいく。半次は、そうした恒次郎を温かく見守っていく。この恒次郎という少年もきちんとしたけじめと矜持をもった少年で、無遠慮な蟋蟀小三郎に対しても小気味よく対応する少年である。

 本作品には全部で八話が収録されているが、いずれも半次の推理がさえていく話であり、贋作をめぐっての町奉行を巻き込んだ騒動を描いた「第一話 御奉行の十露盤」から蟋蟀小三郎が惚れて一緒暮らすことになった「ちよ」という武家の後家の「仇打ち」をめぐっての元夫の置かれた状況や同僚の手当の二重搾取の事件を取り扱った「第八話 ちよ女の仇」まで、事件の顛末と謎ときが見事に展開されている。この作品は、作者の脂が乗り切った作品のひとつではないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿