2010年4月1日木曜日

宮部みゆき『天狗風 霊験お初捕物控(二)』(1)

 晴れたり曇ったりで、気温は少し上がっているのだが、「花曇り」というには幾分寒すぎる気もする。季節の変わり目ということもあって、身体機能が環境に馴染んでいかない感じがある。

 先日から宮部みゆき『天狗風 霊験お初捕物控(二)』(1997年 新人物往来社)を読んでいるが、なかなか読み進まない。これは、「お初」という霊感の強い娘を主人公にしたファンタジック時代小説とでも呼べるような作品で、お初は、姉妹屋という一膳飯屋をしている岡っ引きの兄夫婦の店を手伝いながら、江戸で起こる不可思議な事件を、彼女の霊感を見込んだ町奉行根岸肥前守の依頼で解決していくというもので、根岸肥前守は、名を根岸鎮衛(ねぎし やすもり)といい、1735-1815年に実在した南町奉行所の名奉行として著名で、彼が集めた江戸の様々な事件や世話話を記した『耳嚢』全10巻には面白い話が記されているが、もちろんその他の登場人物は創作上の人物である。

 お初は不思議な力をもち、見えないものを見たり聞こえないものを聞いたりする能力をもち、物に触れればその物の背景を知ることができるし、猫とも会話ができる。彼女には、心強い岡っ引きの兄がいたり、思いやり深い兄嫁がいたり、また与力の息子で、見習い与力であったが、それを辞めで算術の学問を志している古沢右京之介という信頼を寄せる友人(お互いに思いをもってはいるが、それを明らかにはしない)がいたりして、奇想天外な事件を解決していくのである。

 『天狗風』は、「天狗にさらわれて神隠し」にあった二人の娘の事件を解決していくというもので、「天狗」が「女の情念や怨み」の化身であるというのも作者らしい設定であろう。

 物語の本筋は奇想天外な荒唐無稽なものではあるが、背景がしっかりしており、奉行所で起こる冤罪事件や人間の欲がからむ策略や女の情念と嫉妬の恐ろしさなどが展開され、その中で、爽やかなお初と古沢右京之介の真直ぐな姿が光って、娯楽小説としては面白い。

 ただ、作者にしては展開のテンポが少しゆっくりで、それだけ描写が丁寧であるとは言えるのだが、この類の小説としては読むのに少し時間がかかるような気もする。特に、猫が「お初」に化けたり将棋の大駒に化けたりして「ものの化」騒動を引き起こして、お初を助けていくようなところでは、少し作者が遊びすぎるような気もする。

 しかし、おそらく、宮部みゆきは、現代の「語り部」のひとりと言えるかもしれないと思ったりする。全474ページもの長い物語の語り口調は、物語の展開が一貫しているので、するすると読み続けられるものとなっている。しっかりした時代考証の上で奇想天外な物語を展開しているところに作者の技量の豊かさもある。もう少し彼女の作品を読んでみたいと思う。

 しかし、読了していないので何とも言えないが、彼女の作品では、先に読んだ『日暮らし』の方が優れているのではないかと思っている。

 昨日は、金沢出身のMさんのお宅に呼ばれて、古い蒔絵の火鉢を拝見させていただいた。Mさんのご実家は金箔などを作っている名家で、今は、昨年ご主人を亡くされた八十六歳のかくしゃくとしたお婆さんである。今日は夕方、中学生のSちゃんが来るという。数学の美しい二次関数の話でもしよう。物事を関数で表わしていく思考方法は、物事を相対化していく上でも重要だろう。宮部みゆきは夜にでも読むことにしよう。

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