昨日まで引き継ぎなどで熊本にいたが、やはり暖かい。こちらも今日だけは春めいてくるとのことで、明日からまた数日は寒くなるとの予報が出ている。今日は、留守の間にたまった仕事を片づけなければならないが、さて、何から手をつけようかなどと思ったりする。日程が少し厳しくなったが、まあ、とりあえずはコーヒーでも飲もうと、先ほどコーヒーを入れたところ。
先日、出抱える前に、藤井邦夫『知らぬが半兵衛手控帖 投げ文』(2006年 双葉文庫)を読んでいたので、それを記しておこう。文庫本カバーの裏には、これがこのシリーズの2作目の作品であると出ていた。1作目は、読んではいないが、北町奉行所臨時廻り同心の白縫半兵衛(しらぬい はんべえ)を主人公にした捕物帳物である。
臨時廻り同心は、長年定町廻り同心を勤めた経験豊かな同心がなるのが慣例で、南北奉行所に各2名が置かれていた。主人公の白縫半兵衛も中年過ぎの男で、初めての出産の時に妻子を亡くし、一人暮らしをしている。彼は、止むを得ずに罪を犯さなかった人たちの事情を汲んで、「知らぬ顔」をして人情厚いところから「知らぬ顔の半兵衛」と呼ばれ、事情があればそれを何とか事件にしないようにしていく人情家である。だが、田宮流居合の達人である。
また、半兵衛が定町廻り同心だった頃に彼に仕えてくれた老練の岡っ引きが一人娘の「お夕」を残して亡くなったために、その娘のために家を買い与えて、一階を飲み屋にして暮らしているので、その店によく出入りしており、多くの人たちに慕われているからか、独り暮らしの侘しさは全くないように描かれる。
本書では、婿養子に入って頭があがらない商家の主人が、昔の恩義を返すために、狂言の拐かし(誘拐事件)を企んで金を作ろうとする事件を、その商家の主人の気持ちを察しながら解決していく事件(第一話)や、仇討ちとして狙われた方の侍の方が立派で、しかも病を負って死期が迫っている武士の最後と仇討ちをする方の若い侍が藩の厄介者扱いとなり、藩の手で始末されていくという哀れな最期を描いた事件(第二話)、素人女の売春組織を暴いていく事件(第三話)、押し込み強盗を捕らえていく事件(第四話)が記され、いずれも、どうにもならないことの中で生きている者たちに半兵衛が手を差し伸べられる物語が展開されている。病にあるものを小石川養生所で面倒を見てもらうようにしたりする。
事柄の顛末は、あまりにもあっさりと都合よく展開されていくし、最初の登場人物が事件の鍵となるというミステリーにありがちな展開である。情景の描写も時代背景などもほとんどなく、坦々と登場人物たちの動きが記され、江戸の古地図をたどるような背景描写だが、どこかすっきりとしたものになっている。
本書は、シリーズとしてかなりの作品が書かれているようだが、ありていにいえば、流行の人情捕物帳の一つであると言えるだろう。
こういう作品は、娯楽作品であり、奥行きの深さなどないのだから、それなりに気楽に楽しめるものではある。ただ、読む方はそれでいいが、書く方は、古地図丹念に辿られているようで、なかなか大変だろうとは思う。町や道が詳細に記されているが、もう少し風景描写が想像されて書かれてもよいとは思うが。
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